ビタミン 母児の健康

葉酸の代謝能力は遺伝子で左右される

小浦ゆきえ

「妊娠=葉酸サプリ」が常識になった理由

平成12年(2000年)に出された「妊娠を計画している女性は食事からの葉酸に加えて栄養補助食品を摂取を…」という厚生労働省(当時の厚生省)の通知で、妊娠計画中から妊娠初期に葉酸サプリメントの利用が推奨されるようになりました。この「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」という通知の中に、自分の葉酸欠乏のリスクを知る手掛かりが隠れているのを知っていましたか?

今回は、通知の中で紹介されている葉酸代謝遺伝子多形(変異)について紹介します。

日本人の6人に1人は 葉酸が代謝できていない?

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厚生労働省の通知の中の「図1 葉酸と神経管閉鎖障害の発症の関係モデル」をよく見ると、小さな※がついていて、こう書いてあります。「※1 MTHFRの677番目のCがTに変異しているとこの酵素が働きにくくなる。その結果5,10-メチレンH4葉酸→5メチルH4葉酸の代謝がうまくいかず5-メチルH4葉酸が減少する。」

 わかりやすく言うと、「遺伝子の中に葉酸代謝酵素(MTHFR)の情報が書き込まれている場所があって、その中の677番目が違う文字になっていると酵素が作られる量が少ないので働きが悪くなって、体内で使える形の葉酸(5-メチルH4葉酸)の量が減ります。」ということ。
私たちの遺伝子は、父親と母親の両方からもらっているので、片方だけに異常があっても、もう片方が正常なら、少なくとも半分は機能してくれます。でも、両方に異常があると、自力で葉酸を使える形に代謝することができないのです。

難しい話のようですが、お酒に強い人・弱い人をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。アルコールの分解能力も、親からもらった2つの遺伝子の両方が正常でアルコール分解酵素を作れる人(お酒に強い人)、片方に変異がある人(飲めるけど赤くなる人)、両方に変異がある人(全く飲めない人)という3つのタイプに分かれますよね。

葉酸もこれと同じで、代謝酵素を作る遺伝子の両方が正常な人、片方に変異がある人、両方に変異がある人がいます。日本人では、両方が正常な人は約35%、片方に変異がある人は約40~50%、両方に変異がある人は約15%といわれています。ということは、6人に1人は葉酸の代謝がうまくできず、不足しやすい体質なのです。


葉酸が代謝できない人はどうするの?

体内の葉酸濃度が低いと、胎児の神経管閉鎖障害のリスクが高くなるなります。これに加えて、葉酸によって処理されるはずのホモシステインというアミノ酸が溜まってしまい、病気(動脈硬化や脳卒中・高血圧など)のリスクが高くなってしまいます。

これまでの研究で、「遺伝子多形があっても、十分な量の葉酸を摂ることで体内濃度を上げることができる」ということがわかったので、「妊娠計画中は栄養補助食品などで400μg」という方針が示されたのです。

最近は、葉酸代謝遺伝子の検査キットなども登場しています。もし自分が葉酸代謝ができないタイプだとわかったら、妊娠計画中~妊娠初期だけではなく、少なくと授乳がおわるまで、できれば健康のためにずっと葉酸を摂り続けるのが良いかもしれません。