有害物質

採卵から胚移植までのクリニック周辺の大気汚染と体外受精治療成績との関係

細川忠宏

SO2O3
体外受精において、採卵から胚移植まで(培養期間)のクリニック周辺の大気汚染物質の濃度は、凍結融解胚移植の治療成績と関連し、SO2(二酸化硫黄)やO3(オゾン)の量が多いほど出産率が低くなること、ただし、新鮮胚移植の治療成績には関連しないことが中国で実施された研究で明らかになりました。

 中国・厦門大学の研究グループは、2013年1月から2016年12月までの間にART治療を受けた11,148名(平均年齢:31.5歳)の16,290周期を対象に、クリニック周辺の大気汚染物質の濃度と体外受精結果との関係を後ろ向きに調査しました。

大気汚染物質はPM2.5、PM10、SO2(二酸化硫黄)、NO2(二酸化窒素)、CO(一酸化炭素)、O3(オゾン)の6つとしそれらの濃度は、市内の大気観測基地局のデータを用いて培養期間中の1日あたりの平均を算出し、それぞれの汚染物質の平均濃度で4グループに分け、妊娠率や出産率との関連を解析しました。
 
全体の胚移植あたりの妊娠率、出産率は、それぞれ、55.1%、47.1%でした。移植方法別の出産率でみると、凍結融解胚移植(4013名/5409周期)で42.7%、新鮮胚移植(9553名/10991周期)で49.2%でした。

それぞれの大気汚染物質との関連では、SO2とO3濃度で、凍結融解胚移植の妊娠率や出産率と有意な関連性がみられました。一方、新鮮胚移植ではいずれの汚染物質とも治療成績との関連は見出すことができませんでした。

培養期間中のクリニック周辺のSO2濃度が最も高かったグループの凍結融解胚移植の出産率は最も低かったグループに比べて35%低く(OR:0.63, 95%CI 0.53-0.74)、同様にO3濃度が最も高かったグループでは最も低かったグループに比べて31%低い(OR:0.69 95%CI 0.58-0.82)ことがわかりました。

また、SO2やO3の新鮮胚移植と凍結融解胚移植の治療成績への交互作用を比較解析した結果、凍結融解胚移植は治療成績に対するSO2やO3の影響を有意に増強したことがわかりました。

さらに大気汚染物質の複合的な観点からSO2とO3の凍結融解胚移植の出産率への影響を解析した結果、6つの大気汚染物質を含んだ場合のSO2濃度が最も高かったグループが最も低いグループと比較した出産率が最も低く(OR:0.61 95%CI 0.47-0.80)、SO3のみの濃度で解析した場合と同様も結果が得られました。

これらの結果から凍結融解胚移植は、体外培養期間のクリニック周辺のSO3やO3等の大気汚染物質の影響を増強することが示唆されました。

二酸化硫黄(SO2)は、重油、軽油、石炭など硫黄(S)を含む燃料が燃焼するとき、燃料中に含まれる硫黄が空気中の酸素(O2)と結合して生成される硫黄酸化物の一種で、亜硫酸ガスとも呼ばれます。

また、オゾン(O3)は、大気中の二酸化窒素(NO2)が紫外線を受けて光化学反応を起こし、一酸化窒素(NO)と原子状酸素に分解されるとき、原子状酸素と大気中の酸素分子が結合して生成されます。このようにしてできたオゾンは、光化学スモッグ発生の指標物質である光化学オキシダントの主成分となります。

大気汚染が妊娠する力や体外受精の結果と関係があることは知られていましたが、ほとんどの先行研究では凍結融解胚移植の回数や頻度が除外されていました。

今回の研究結果は、体外受精に必ずしも最適ではない環境に対して、凍結融解胚移植を受けた胚が、新鮮胚移植を受けた胚よりも脆弱である可能性を示しています。

この研究で用いられた大気汚染物質の曝露データは、屋外で測定されたものであり、体外受精が行われる室内の空気を直接測定したものではありません。

ただし、重度に汚染された場所や気候環境下では、凍結融解胚移植の結果は、周囲の大気汚染物質の変動にある程度影響を受ける可能性があるのかもしれません。