有害物質

男性の生殖能力の低下に関連する産業大気汚染の影響

細川忠宏

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産業由来の化学物質による大気汚染への長期間の暴露は、無精子症の増加や総運動精子数の減少にみられる男性の生殖能力の低下に関連していることが示唆されました。

 大気汚染へ長期的にさらされることによる男性の生殖能力への影響を調査することを目的とした研究が、アメリカのユタ州で行われました。

対象は、2005年から2017年にかけて精液検査を受けた、21,563人の男性参加者でした。
研究では、ユタ州の人口データベースから各参加者の過去5年間の居住地の履歴をもとめ、さらに、大気中に排出された内分泌かく乱物質(ホルモンの働きを阻害する物質)を含む9つの化学物質を排出している産業施設を特定しました。そして化学物質の量と、参加者の居住履歴の関連について調査されました。

測定したのは精液の濃度、総数、射精量、総運動率、および運動精子数で、さらに年齢、人種/民族、近隣の社会経済的状況などの要因を考慮して分析が行われました。

その結果、一部の化学物質が精液の状態にマイナスの影響を及ぼすことがわかりました。
具体的には、アクリロニトリル、芳香族炭化水素、ダイオキシン類、重金属、有機溶剤、有機塩素、フタル酸エステル類、銀粒子の8つの化学物質で、この暴露量が増えるほど精液量や精子の運動率が低下し、無精子症のリスクが上昇したということです。

また、精液や精子に関するすべての数値は、社会経済的に不利な状況と関連してマイナスに関連し、最も不利な地域に住む男性は、精液の濃度、量、総運動率が低かったことが示されました。 

<コメント>
 環境因子(大気汚染)と社会経済的因子(貧困)が男性の精液パラメーターに与える影響についての臨床研究です。今回の研究で大気汚染との関連が最も強くみられたのは無精子症の増加、総運動率と精液量の減少でした。

今後は、それぞれの化学物質や社会経済的要因が男性の生殖機能へ与える影響について、さらなる研究が期待されます。