不妊の原因になる病気

男性の禁欲期間がおよぼす妊娠率や出産率、精子の質への影響

細川忠宏

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禁欲期間を短くすることで、精子の質が改善され、妊娠率や生児獲得率*1が改善されることが示されました。

精子は成熟する過程で、精巣上部の精巣上体を通りながら運動能(前に進む能力)と受精能(卵子の中に入り、受精させることができる能力)を獲得します。一方で、精巣上体を通る際や、そこにとどまっている間に活性酸素にさらされる可能性があります。

活性酸素は、精子のDNAの損傷を引き起こし、精子の機能に悪影響をおよぼすことが知られており、さらには妊娠や出産にマイナスの影響があることがわかっています。

一方、精巣内に存在している精子は、射精されて放出された精子に比べて精子DNA断片化率*2が低いことから、精子が精巣から精巣上体管へ移行し、貯蔵されている間にこの精子DNA断片化率が増加することがわかっています。

以上のことから、禁欲期間は精子DNAの断片化や不妊治療の成績に影響をあたえる可能性があることが考えられます。

WHOの精液検査マニュアル第6版では、採精の前に2~7日間の禁欲期間を推奨していますが、最近の研究では、禁欲期間を短くすることで、精子DNA断片化の低下や不妊治療の成績が上昇することがわかってきており、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)では、禁欲期間を3日から4日に短縮することを推奨しています。

禁欲期間の短縮が不妊治療へよい影響を及ぼすのであれば、安全で低コストな方法となりますが、今まで禁欲期間と妊娠率との関連を調べた研究は十分ではありませんでした。

今回、デンマークの研究者たちは、過去に行われた禁欲期間と精子の質に関する研究から、24の研究を抽出し、禁欲期間と妊娠率の関係について調べました。

それらの研究に用いられた禁欲期間はさまざまでしたが、いずれの場合も、禁欲期間が長い場合に比べて短い方が、不妊治療での妊娠率や生児獲得率の上昇につながりました。

また、同様に精子DNA断片化率についても、禁欲期間が短い方が低いことが報告されています。

24の研究は異なる質のものであるため、適切な禁欲期間を抽出することはできなかったようですが、すべての研究で禁欲期間が短いほど改善されていたということです。

*1) 生児獲得率:最終的に出産まで至った女性の数
*2) 精子DNA断片化率(DFI):精液中にDNAの損傷した精子が含まれる割合


<コメント>
卵子は女性の年齢とともに老化していく一方で、精子は毎日つくられ続けるため、改善していくことができます。

その中でも、禁欲期間を短くすることは、コストもかからず取り組みやすく、有効な方法と言えます。

禁欲期間を短くすることに加えて、精子の質の改善のために男性が取り組める方法を以下にご紹介します。

・バランスの良い食生活を心がける
 肉食に偏りがちな方は、野菜や果物、魚も意識して摂るようにし、炭水化物は玄米ごやんやライ麦パンなどの、精製度の低いものに替えてみましょう。

・十分な睡眠と適度な運動を
 適度な運動は体の抗酸化力を高め、ホルモンバランスにもよい影響を及ぼしますが、過度な運動はかえって精子の質の低下につながるので注意が必要です。

・適正体重を維持しましょう
 やせすぎ、太りすぎ、どちらもパートナーの妊娠率の低下につながることがわかっています。

・タバコやアルコールはほどほどに
 精子の質を下げる原因となる、酸化ストレスを増やしてしまうほか、アルコールは男性にとって大切なミネラルである亜鉛の吸収を妨げてしまいます。

・育毛剤はひかえましょう
 フィナステリドを主成分とするAGA治療薬には、男性ホルモンの作用を抑えるはたらきがあるため、精子の質の低下につながります。

・高温に注意
 精子をつくる精巣は熱に弱い性質があります。長時間のサウナや入浴、ぴっちりとした下着は避けるようにしましょう。