ビタミン 不妊の原因になる病気

原因不明不妊女性へのサプリメントによる栄養補充の有効性

細川忠宏

160113
原因不明不妊症の女性は自然妊娠した女性に比べて運動習慣のある人の割合が低く、栄養が不足したり、バランスが悪い人の割合が高いこと、また、原因不明不妊の女性で栄養不足やアンバランスな女性には体外受精前の3ヶ月間のサプリメント補充が治療成績の改善に寄与する可能性があるが、適切な栄養素を補充しなければマイナスの影響を及ぼす可能性もあることが、イタリアの研究で明らかになりました。

イタリアの大学の研究グループは、原因不明不妊の女性にとって栄養素の不足やアンバランスが妊孕性(妊娠する力)の低下にどの程度の影響を及ぼしているのか、また、原因不明不妊の女性の栄養素の不足やアンバランスによる妊孕性の低下へのサプリメント療法の有効性を調べることを目的に2つの試験を実施しました。

1)原因不明不妊の女性(グループA)と妊娠初期(自然妊娠による)の女性(グループB)の栄養摂取状況の比較

原因不明不妊と診断された18〜40歳の健康な女性198名(グループA)と対照群として妊娠初期(自然妊娠による)の女性59名(グループB)に、24時間食事思い出し法と1週間食事記録法(*)によって、どんな食品をどれくらいの頻度でどれくらいの量を食べているのかを調べ、栄養価計算ソフトで栄養素の摂取状況を算出し、年齢や身長、体重、BMI、身体活動などのプロフィールとともに比較しました。

その結果、グループAの女性はグループBの女性に比べて、運動習慣のある女性の割合が低く(33.3% vs 69.5%)、BMIは高く(28.28±3.39 vs 24.28±2.18)、1日の摂取カロリーも多く(2688.64±580.78 vs 2115.44±326.63)、適正なエネルギー摂取量からのバラツキも大きい(388.61±531.03 vs 56.84±239.47)ことがわかりました。

そして、両グループで食事や間食の頻度に違いはみられなかったのにもかかわらず、グループAの女性はグループBの女性に比べて昼食や夕食により多くのカロリーを摂取していました。

また、栄養素の摂取状況では、グループAの女性はグループBの女性に比べて、砂糖や脂質全体の摂取量が多く、オメガ6やオメガ3脂肪酸の摂取量は少ないことがわかりました。ビタミンやミネラルでは、ビタミンCやB1、B2、ナイアシン、B12、葉酸、ビタミンD、カルシウム、鉄のいずれもグループAの女性はグループBの女性に比べて推奨量に達していない割合が高く、不足していました。

このように原因不明不妊の女性は対照群の女性に比べて、あまり運動していなく、カロリーを過剰に摂取し、オメガ6やオメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルが不足している傾向にあり、栄養不足やアンバランスの割合が高いことがわかりました。

2)原因不明不妊女性へのサプリメント投与と体外受精の治療成績の関係

原因不明不妊女性122名を栄養摂取状況で以下の3つのグループに分けられました。

Cohort 1)必要とされる栄養素量が充足しているグループ
Cohort 2)微量栄養素が不足しているグループ
Cohort 3)栄養素不足し、アンバランスで肥満のグループ

それぞれのグループに以下の3つの種類のサプリメントを、体外受精開始までの3ヶ月間飲んでもらい、グループ別、摂取サプリメント別の治療成績を比較しました。

Subgroup 1)鉄7mg、葉酸400μg
Subgroup 2)マルチビタミンミネラル(鉄30mg、葉酸400μg、ラクトフェリン75mg、フッ素1mg、DHA150mg、亜鉛7.5mg、銅1.2mg、カルシウム400mg、マグネシウム100mg、マンガン2.5mg、ヨウ素150μg、ビタミンD 10μg、ビタミンB6 1.4mg、ビタミンB12 2.5μg、ビタミンC 60mg)
Subgroup 3)マルチビタミンミネラル(Subgroup 2と同じ配合内容)+イノシトール563.8mg(ミョーイノシトール550mg、Dキロイノシトール13.8mg)

その結果、原因不明不妊女性で必要とされる栄養素が充足しているグループでは、鉄+葉酸を摂取した時の妊娠率が最も高く(36.3%)、マルチビタミンミネラルと摂取した時には30%だったものの、マルチビタミンミネラル+イノシトールを摂取した場合は10%に低下しました。

そして、微量栄養素のみが不足しているグループでは、鉄+葉酸摂取時の妊娠率は23.5%でしたが、マルチビタミンミネラルを摂取した時が最も高く(36.8%)、マルチビタミンミネラル+イノシトール摂取時には13.3%に低下しました。

また、微量栄養素が不足し、栄養摂取バランスも悪く、肥満のグループでは、鉄+葉酸摂取では妊娠に至らず(0%)、マルチビタミンミネラル摂取時で7.1%でしたが、マルチビタミンミネラルイノシトール摂取時が最も高く、15.3%の妊娠率でした。

このことから、原因不明不妊女性が体外受精開始前にサプリメントによる栄養補充を行なう場合には、鉄と葉酸以外には不足している栄養素を補充するべきであること、また、微量栄養素の不足に加えて、カロリー過剰摂取で肥満を伴う場合にはイノシトールを摂取することで妊娠率が改善される可能性があることがわかりました。

大変興味深い研究報告です。

まずは、原因不明不妊とは「不妊検査を受けても、不妊の原因となる異常が何も見つからない場合」をいいます。基本の検査ではホルモン異常や排卵の有無、卵管の通過性を調べるのが一般的です。

その一方で、栄養の過不足やアンバランスは妊孕性(妊娠する力)を低下させるリスクファクターになり得るとの研究データが蓄積されてきています。

ところが、不妊の検査で妊娠、出産には必要とされる栄養素の過不足や摂取バランスまでは調べられることはありません。なぜなら、食事からの栄養素の摂取状況を調べるには、血液検査ではなく、食物摂取頻度調査票の記入などが必要になるからです。

そのため、原因不明不妊と診断された女性の中には、栄養素の過不足やアンバランスによって、妊娠しづらくなっているケースが少なからずあるのではないかとの仮説を立て、原因不明不妊の女性と妊孕性が正常な(自然妊娠した)女性を対象に、食事調査を実施し、食事からの栄養摂取状況を調べ、比較し、栄養素の不足やアンバランスに対して、サプリメントが治療成績の改善に寄与するのかを調べています。

結果は、原因不明不妊女性は正常な妊孕性のある女性に比べて、栄養素の過不足やアンバランスな状態の女性が明確に多かったとのことで、特に、砂糖の過剰摂取や不飽和脂肪酸不足、ビタミンやミネラルの微量栄養素不足などです。

また、体外受精を開始するまでのサプリメントは妊娠率の改善に寄与している可能性があることがわかりましたが、注意すべきは「何を補充するか」で、葉酸や鉄などの重要なビタミンミネラル以外は不足していると考えられる栄養素を補充することが大切で、それ以外の成分を摂取するとマイナスの影響を及ぼし、妊娠率の低下を招いてしまいかねません。

そのため、不妊によいとか、子宝サプリなどのキャッチフレーズで多くのサプリメントが出回っていますが、その配合成分や量を確かめることがとても大切です。ビタミンやミネラル以外で、万人によい成分はありません。

今回の研究は被験者の数が少ないこと、男性の影響は調べていないことなど、必ずしもエビデンスとして十分なレベルではないと指摘していますが、食事パターンを見直し、バランスのよい栄養摂取を心がけ、不要なサプリメントは摂らないようにすることの大事さを教えてくれています。
    

出典:Reproductive Sciences