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遺伝子の ON OFF を左右するエピジェネティクス

小浦ゆきえ

遺伝による体質は、持っている遺伝子だけでは決まらない

遺伝子(DNA、ゲノム)は、体を作る時の設計図だという話は聞いたことがあると思います。実際、私たちは肌色や髪質など、親から受け継いだ遺伝子によって決まる体質があることを目の当たりにしていますよね。

でも、最近「父親の肥満が孫の体質に影響する」といった報告も出てきています。母親ではなく父親の、しかも、一時的な肥満が孫の体質に影響するというのは、遺伝子の話だけでは説明できません。
そこには、最近 遺伝学の分野で注目されている「エピゲノム」「エピジェネティクス」が関係しているのです。

今回は、エピジェネティクスについて簡単に紹介したいと思います。

エピゲノムは設計図に貼られたシール

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体の設計図である遺伝子nには、体を作るための膨大な情報が詰まっています。家を建てるための設計図面(分厚い本)みたいなものです。
実際に家を建てる時は、玄関を作る時に玄関の設計図を見て組み立てます。この時、その図面の一部がシールで隠されていたらどうなるでしょう?
隠されている部分は読めないので、そこに書いてある情報は読み飛ばされることになります。


遺伝子のスイッチのON・OFFを左右するこのシールのことをエピゲノムシールが貼られたり、はがされたりする変化のことをエピジェネティクスと言います。

 一卵性の双子のように全く同じ遺伝子を持っていいても、生活習慣などによって貼られるシールの数や場所に違いが出てくるため、外見やなりやすい病気が違ってきたりするのです。

シールは いつ、どうして貼られるの?

赤ちゃんは、父親と母親の両方から遺伝子をもらって誕生します。実は、母親からもらう遺伝子も、父親からもらう遺伝子も、既にいくつものシールが貼られている状態で赤ちゃんに渡されているのです。
さらに、お腹の中で育つ過程でも、栄養不足やアルコールなど、色々な因子によってシールが貼られてしまいます。
誕生後も、アルコールや喫煙、肥満、ストレスなどの生活習慣によって、シールが貼られていきます。「体質は遺伝子+生活習慣で決まる」というのは、栄養や休養といった直接的な理由だけでなく、エピジェネティクスによる影響もあるのです。

このシールには、メチル化とアセチル化という2つのタイプがあります。イメージとしては、メチル化は部分的に小さな付箋誌(設計図は傷つけない)が貼りついたような状態。アセチル化は、強力なシール(設計図を傷つけてしまう)が貼りついているような状態です。

これらのシールの貼られ方で、設計図が間違った内容で読みとられてしまうことも、がんなどの病気につながっています。

今からでも大丈夫。赤ちゃんのシールははがせます

赤ちゃんは、父親と母親からシールが貼られた遺伝子をもらいますが、実は、受精するとシールはがしが始まるのです。全てのシールがはがされるわけではありませんが、着床までの間に多くのシールがはがされます。
そして、着床すると、お母さんのおなかの環境によって新たなシールが貼られていきます。妊娠初期は、貼られるシールの内容に特に影響が大きい時期です。
例えば、「妊娠初期にママが栄養不足だと、子供は肥満になりやすいことや、そういった状況で生まれてきた女の子から産まれてきた子(孫)も肥満になりやすい」(後期の栄養不足ではこのようなことは起こらなかった)という報告があります。
ですから、赤ちゃんのための体作りは、妊娠がわかってから(基本的なシール張りが終わった後)ではなく、妊娠する前から始めておくことが大切なのです。

というわけで、子供の将来の健康を考えると、妊娠前~妊娠初期の栄養状態がいかに大切か、おわかりいただけたでしょうか。
ちなみに、メチル化に影響が大きい栄養素として、葉酸、ビタミンB12、亜鉛などが知られています。葉酸は、障害の予防のためだけでなく、赤ちゃんの将来の健康のためにしっかり摂っておきたいですね。

<文 健康食品アナリスト 小浦ゆきえ> 著書 「男と女の子宝サプリ