不妊の原因になる病気 食生活 (栄養)

食事の改善が子宮内膜症の痛みやQOLに与える影響は?

細川忠宏

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子宮内膜症と診断された女性における食事の影響を調査した研究です。この研究では、子宮内膜症を診断された女性を介入群と対照群に分け、介入群には低FODMAP食(*1)、もしくは子宮内膜症食(*2)を実施しました。さらに食事介入の実施後、痛みの強さ、健康状態、およびQOLに与える影響が評価されました。
結果として、食事介入が子宮内膜症に関連する痛みを軽減し、QOLを向上させる可能性があることが示唆されました。

現在子宮内膜症に対して行われている標準的な治療は、その不十分さや副作用から、低FODMAP食や子宮内膜症食など、みずからが取り組める改善方法に関心が集まっています。
また低FODMAP食が子宮内膜症の痛みを和らげる効果があることは知られていますが、子宮内膜症食の有効性については限られた研究しかなく、具体的な食事法のガイドラインはまだ存在していません。

そこで、「低FODMAP食」と「子宮内膜症食」が、子宮内膜症の痛みおよび生活の質(QOL)に与える影響についての調査が行われました。

今回の研究は、2021年4月~2022年12月の期間で実施され、子宮内膜症と診断された合計62名の参加者は、介入群(「低FODMAP食」もしくは「子宮内膜症食」の食事療法あり)または、対照群(食事療法なし)を選択し、介入群には、管理栄養士から手厚い指導が行われました。

食事の管理はそれぞれのグループで6ヵ月の間実施され、痛み症状(排尿痛、膨満感、疲労感を含む)の軽減に焦点を当てて評価されました。

6ヶ月の食事管理の実施後、食事療法を実施した参加者は痛みが減少し、QOLが向上したと報告されました。また、対照群と比較して、膨満感が少なくなり、QOLが改善されたと報告されました。

注意すべき点として、今回の研究ではデータが不足していること、またグループ分けはランダムなものではなく、参加者みずからが群を選択したため、選択バイアスが生じた可能性を考慮する必要があります。

この研究から、子宮内膜症に苦しむ女性にとって、食事介入が有益である可能性が示唆されました。ただしこれは試験的な研究であり、データの不足や長期的な調査がなされていない点は注意する必要があり、より多くの研究とガイドラインが必要と強調されています。

*1) 特定の炭水化物が少ない食事療法。FODMAPは「Fermentable Oligo-, Di-, Mono-saccharides And Polyols」の略で、小腸で吸収されにくい短鎖炭水化物と多価アルコールを抑えます。これらの成分は、過敏性腸症候群など消化器系の症状を引き起こすことがあり、低FODMAP食はこれらの症状を管理するために用いられます。
*2) 子宮内膜症の女性によって開発された、経験に基づく回避食


<コメント>

子宮内膜症とは、子宮内膜が子宮の内側以外の場所(卵巣や卵管、子宮の周囲の組織等)で発生し、発育する病気です。女性ホルモンの影響で月経周期に合わせて増殖し、月経時の血液が排出されずにプールされたり、周囲の組織と癒着をおこしてさまざまな「痛み」をもたらしたりし、「不妊症」の原因にもなります。

治療はホルモン療法や手術がありますが、どの治療法を選択しても将来的に再発する頻度が高いことから長期間のケアが必要です。

そのため、セルフケアが重要で、これまで知られている食事の改善方法ではオランダで提唱された子宮内膜症改善食(子宮内膜症の症状を悪化させる食品を避ける食べ方)がありましたが、その有効性は明らかになっていませんでした。

今回の報告は、過敏性腸症候群(IBS)の食事療法として開発された「低FODMAP食」が、子宮内膜症の症状の軽減にも有効かもしれないというものです。

FODMAPとは「小腸では吸収されにくい発酵性の糖質の総称」で、以下の頭文字を並べたものです。

F → fermentable:発酵性の
O → oligosaccharides:オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖)
D → disaccharides:二糖類(ラクトース)
M → monosaccharides:単糖類(フルクトース)
P → polyols:ポリオール(ソルビトール、マンニトール、イソマルト、キシリトール、グリセロール) 

 低FODMAP食はこれらを多く含む食品を避ける食事法で、具体的な食品は以下の通りです。

【避ける食品(高FADMAP)の例】
野菜:にんにく、玉ねぎ、きのこ、アスパラガス、カリフラワー、グリンピース
果物:りんご、サクランボ、桃、梨、スイカ
乳製品など:牛乳、ヨーグルト、カスタード、アイスクリーム、豆乳(丸大豆使用)
たんぱく質:豆、一部の加工肉、一部の肉類や魚介類のマリネ
パン・シリアル:小麦、ライ麦、大麦、ビスケット
砂糖・甘味料・菓子類:はちみつ、高果糖コーンシロップ、砂糖不使用の菓子
ナッツ:カシューナッツ、ピスタチオ

【食べてよい食品(低FODMAP)の例】
野菜:なす、いんげん、チンゲン菜、ピーマン、にんじん、きゅうり、レタス、じゃがいも
果物:キウイフルーツ、オレンジ、パイナップル、メロン
乳製品(代替):アーモンドミルク、チーズ(ブリー、カマンベール、ハード)、ラクトースフリー牛乳、豆乳(大豆たんぱく由来)
たんぱく質:卵、木綿豆腐、調理済みの肉類や魚介類
パン・シリアル:コーンフレーク、オーツ麦、キヌア、米、小麦・ライ麦・大麦不使用のパン
砂糖・甘味料・菓子類:ダークチョコレート、メープルシロップ、砂糖
ナッツ:マカダミアナッツ、ピーナッツ、パンプキンシード、くるみ


ただ個人の判断で低FODMAP食を取り入れようとすると、多くの食品が高FODMAP食に当てはまるため、食べ物の制限が厳しくなり、食べられるものが限られてしまいます。その結果、栄養素の偏りが出たり、食事の楽しみが奪われてしまう可能性もあります。

そのため低FODMAP食をとりいれる場合は、専門家に相談して取り組むのがベストな方法です。

個人の方が取り入れられる手軽な方法としては、まずは主なエネルギー源であり主食となる穀物を、低FODMAP食品に変更することがおすすめです。
パンやパスタ、うどん、ラーメンを控えめにし、ごはん、10割そば、米粉麺(フォーやビーフン)に代えていく事が最初の段階として始めやすい方法かもしれません。
また、牛乳やヨーグルトを頻繁にとる方は、控えてみるのもよいかもしれません。