母児の健康 不妊の原因になる病気

大豆イソフラボン摂取でPCOS女性の代謝状態の指標が改善

細川忠宏

160203
大豆イソフラボンの摂取はPCOS女性のインスリン抵抗性やホルモン状態、中性脂肪、そして、酸化ストレスの指標を改善することがイランで実施された試験で明らかになりました。

イランのアラーク医科大学の研究チームは、大豆イソフラボン摂取がPCOS女性の代謝状態に及ぼす影響を調べるために無作為二重盲検比較対照試験を実施しました。

70名のPCOSと診断(ロッテルダム基準)された18-40歳の女性を無作為に2つのグループに分け、一方のグループには1日に50mgのイソフラボンサプリメントを、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を、それぞれ、3週間飲んでもらい、その前後の代謝やホルモン、炎症、酸化ストレスの指標を測定しました。

その結果、イソフラボン摂取群(グループ)はプラセボ群(グループ)に比べて、血中インスリン値(-1.2±4.0 vs +2.8±4.7μIU/mL; P<0.001)やインスリン抵抗性指数、HOMAR-IR(−0.3 ± 1.0 vs +0.6 ± 1.1; P< 0.001)が低下、反対に、量的インスリン感受性検査指数、QUICKI(+0.0009 ± 0.01 vs −0.01 ± 0.03; P = 0.01)が有意に増加したことがわかりました。

また、遊離アンドロゲン指数(−0.03 ± 0.04 vs +0.02 ± 0.03; P < 0.001)や血中の中性脂肪(−13.3 ± 62.2 vs +10.3 ± 24.5 mg/dL; P =0.04)も、イソフラボン摂取群はプラセボ群に比べて有意に低下しました。

さらに、血しょう中の抗酸化物質のグルタチオン(+96.0 ± 102.2 vs +22.7 ± 157.8 μmol/L; P = 0.04)はイソフラボン摂取群のほうがプラセボ群に比べ有意に増加していた一方で、脂質が酸化されて生成されるマロンジアルデヒド(−0.7 ± 0.8 vs +0.8 ± 2.3 μmol/L; P= 0.001)はイソフラボン摂取群のほうが有意に低下していたことがわかりました。

これらの結果から、大豆イソフラボンの摂取によってPCOS女性のインスリン抵抗性や男性ホルモン、中性脂肪、酸化ストレスの指標の改善することが示されました。

小さな卵胞がたくさんみられる状態の卵巣のことを多嚢胞性卵巣といい、超音波検査で確認できます。その多嚢胞性卵巣であることに加えて、排卵障害や無排卵などの月経異常を伴うこと、そして、血中男性ホルモン値が高い、または、LH(黄体化ホルモン)値が高いこと、この3つをすべて満たすことが、最新の多嚢胞性卵巣症候群の診断基準とされています。

ごく簡単に言えば、男性ホルモンの値が高いため、卵胞は発育するものの途中で成熟が阻害されてしまい、排卵障害や無排卵を招くことで、不妊の原因になるのが多嚢胞性卵巣症候群というわけです。

ただ、症候群なわけですから、その症状は、決して、一様ではなく、肥満や内臓脂肪過剰、また、毛深くなるなどの男性化傾向がみられることがあったり、インスリン抵抗性といって、インスリンの効き目が悪くなって、糖や脂質の代謝に異常をきたす状態が、男性ホルモン値が高い背景にあることがあり、そのメカニズムはとても複雑なようです。

そのため、PCOSは、排卵障害や無排卵の原因というだけでなく、将来的に、高血圧症や脂質異常症、心血管系疾患、糖尿病などの生活習慣病のリスクの高いことが知られてきました。

一方、大豆イソフラボンは、インスリン抵抗性やホルモン、酸化ストレスを改善するという基礎研究や動物を用いた試験の結果が報告されています。

そこで、大豆イソフラボンの摂取がPCOS女性の生活習慣病のリスクを高めることになる病態を改善につながるかもしれないという仮説のもとに今回の研究が行われました。

ただし、生殖機能への影響については調べられていません。

大豆イソフラボンについては、ゲニステインが37.5mg、ダイゼインが10mg、グリシテインが2.5mg、合計50mgのサプリメントを摂取したとのことですが、日本では内閣府の食品安全委員会が厚生労働省の要請を受けて、大豆イソフラボンの安全な摂取量を示しています。イソフラボンのサプリメントを使うことで月経周期が乱れるなどの健康被害が起こったとする報告されていたからです。

その基準は以下の通りです。

大豆イソフラボンの1日の摂取目安量の上限値:70~75mg/日
イソフラボンサプリメントによる摂取量上限値:30mg/日

実際に100gの大豆食品に含まれているイソフラボンの平均含有量は以下の通りです。 

 豆腐一丁   60~80mg 
 納豆1パック 30~35mg 
 油揚げ1枚   8~16mg 
 豆乳200ml            52mg 

このことから、50mgのイソフラボンサプリメントを自己判断で摂取するのは避けたほうがよさそうです。その代りに、納豆やお豆腐を食べていれば、1日に50mgの大豆イソフラボンは摂取できます。

いずれにしても、PCOSと診断されたら、不妊治療だけに頼るだけでなく、ライフスタイル、特に、食事と運動を改善し、妊娠を目指すことが、妊娠や出産の近道になるだけでなく、妊娠後のリスクの低減、ひいては、将来の生活習慣病のリスクの低減にもつながることを知っておくべくだと思います。

出典:J Clin Endocrinol Metab. 2016; 101: 3386