ビタミン 母児の健康

高所得国におけるマルチビタミン摂取と早産や胎内発育遅延児、先天異常:メタ解析

細川忠宏

MVM
マルチビタミンの摂取は高所得国においても胎内発育遅延児やさまざまな先天異常のリスク低下になる可能性があることがデンマークの研究で明らかになりました。

コペンハーゲン大学病院の研究者らは、高所得国においても食生活の問題から妊娠年齢にある女性の微量栄養素の不足が増えていることから、妊婦のマルチビタミンの摂取が不利な出産の結果について検証するべく、これまでの研究結果を統合し、解析しました。

過去の研究論文を検索した結果、トータルで98,926名の女性を対象にした35件(4件のRCT、31件の観察研究)の論文を選び出しました。

この研究の主たる評価項目である妊娠前後のマルチビタミン摂取による早産リスクについては有意な減少がみられませんでした。その一方で、胎内発育遅延(SGA:small-for-gestational-age)のリスクについては有意な減少が認められました。

また、先天異常のリスクについては、二分脊椎症や心臓血管の欠陥、尿路欠損、四肢の不備のリスクの有意な減少が認められました。

このことから、高所得国においても妊娠前後の女性のマルチビタミンのサプリメントの利用が推奨されるかもしれない。ただし、エビデンスレベルが低く、さらなる精度の高い、大規模な研究による検証が必要な段階であることは知っておくべきであると結論づけています。

妊娠の可能性のある女性には妊娠前から葉酸のサプリメント補充が推奨されています。1日に400μgの葉酸をサプリメントで補充することによって胎児の二分脊椎症の発症リスクが低減することがわかっているからです。

食糧不足などから栄養失調が蔓延している低所得の発展途上国ではマルチビタミンの摂取が妊娠合併症や不利な出産の結果のリスクを低下させることから、葉酸だけでなく、他のビタミンやミネラルの補充も推奨されていました。

ところが、近年、高所得国においても不適切なダイエットや食生活の乱れなどから、生殖年齢にある女性の微量栄養素不足が広がっていることが報告されていることから、今回、初めてアメリカやヨーロッパなどの高所得国での研究が実施されました。

その結果、早産や低出生体重児では有意なリスクの低下はみられなかったものの胎内発育遅延児やさまざまな先天異常のリスクの低減効果が高所得国でもみられました。

因みに胎内発育遅延とは、お母さんのお腹の中にいる期間(在胎期間)に相当する標準身長・体重に比べて、小さく生まれることをいい、身長と体重の両方が10パーセンタイル(100人中小さいほうから10番目)未満と定義され、出生時の身長・体重をみて専門医が判断します(サイト「子どもの健やかな成長を見守るために知っておいて欲しいこと」から)。

ただし、エビデンスレベルは、低い、あるいは、とても低く、決して、全ての妊娠前の女性に葉酸だけでなく、マルチビタミンのサプリメントを推奨すべき段階ではありません。

そのため、もしも、バランスのよい食生活ができていなくて、微量栄養素の不足が疑われる場合に限って、葉酸だけでなく、マルチビタミンミネラルも補充したほうがよいのかもしれません。

出典:Am J Obstet Gynecol 2017; 217(4): 404.e1-404.e3