ビタミン 母児の健康

妊娠中の母親のビタミンDレベルと出生児の幼年期の神経発達

細川忠宏

VD_20170727
大規模出生前コホート研究のALSPAC(イギリス・エイボン州における親と子の縦断的研究※)のデータを分析した結果、妊娠中の母親のビタミンD不足は出生児の4歳迄の運動や社会性の発達にマイナスの影響を及ぼすことが示されました。

妊娠中に魚を食べることは出生児の良好な認知能力と関連することが知られていますが、それは魚油に豊富に含まれるビタミンDに関連するのではないかと考えられていますが、妊娠中の母親のビタミンDレベル(血清25(OH)D)と出生児の神経発達の関連は明らかになっていません。

そこで、ALSPACのデータから、妊娠中に母親が血清25(OH)Dを測定しており、かつ、出生児が出生後6-42ヶ月の間に、4つ領域(姿勢や移動に求められる運動技能、細かい動作に求められる運動技能、社会性、コミュニケーション)の神経発達調査を、少なくとも1つ以上受けた7,065組の母子を対象に、妊娠中のビタミンDレベルと児の幼年期の神経発達状況の関連を調査しました。

ビタミンDレベル以外の因子の影響の補正後、母親が妊娠中にビタミンDが不足(< 50nmol/l)していた子どもは、生後30ヶ月時点の姿勢と移動運動に関する技能の発達スコアや細かい動作が要求される運動の発達スコア、そして、生後42ヶ月時点での社会性の発達スコアでは、いずれも、母親が妊娠中にビタミンDが充足(≧50nmol/l)していた子どもに比べて低値(下位4分の1)だったことがわかりました。

ただし、4歳以降ではIQを含む神経発達では妊娠中の母親のビタミンDレベルとの関連はみられませんでした。

これら結果から、妊娠中の母親のビタミンD不足は出生児の4歳迄の運動や社会性の発達に、決して大きいものではありませんが、マイナスの影響を及ぼすことが示唆されました。

※イギリスの南西部のエイボン州(現、ブリストル州)で1991年4月1日から1992年12月31日に出産した子どもとその母親14,541組を対象に、胎内環境と出生児の心身の健康状態の関係を追跡調査した世界的に有名な大規模出生前コホート研究のこと。

妊娠中の母親のビタミンD不足は子どもの出生後の神経発達にマイナスの影響を及ぼす可能性があるとのことですが、そのメカニズムは明らかになっているわけではありません。ただし、ビタミンDの受容体や代謝酵素はヒトの脳の広い領域に存在していることから新生児の脳神経系の発育に関与しているのではないかと考えられているようです。

今回の研究で妊娠中の母親のビタミンDレベルと子どもの幼年期の神経発達の程度との関連がわかり、妊娠、出産に際してビタミンDの役割の多彩さが示されました。

昨年からイギリス政府機関は妊娠中の女性に葉酸だけでなく、ビタミンDのサプリメント(1日10μg)の摂取も推奨するようになりました。

日本でも魚の摂取量の低下や紫外線の過度の防御から女性のビタミンD不足が蔓延していることがわかっています。

まずは、可能であればビタミンDの指標である血中の25(OH)Dを測定し、不足いていれば、魚や卵、きのこなどでビタミンDを摂取すること、そして、サプリメントの利用も考えたほうがよいかもしれません。

出典:Br J Nutr. 2017; 117(2): 1682-1692