男性の肥満が胚発生や流産リスクに影響する可能性
男性の肥満が顕微授精後の胚の発育や流産リスクと関連する可能性が、スペインで行われた大規模研究により報告されています。
不妊治療では、女性側の年齢や卵巣機能に注目が集まりやすい一方で、男性側の体格や健康状態、生活習慣が治療結果にどのように関わるのかについても、近年少しずつ研究が進んでいます。
今回の研究では、スペインの2施設で2018年から2021年に行われた卵子提供ICSI(顕微授精)周期1,398周期のデータが解析されました。対象となったのは7,846個の胚で大規模な研究です。
この研究の大きな特徴は、卵子提供周期を対象としていることです。通常の体外受精や顕微授精では、卵子の年齢や卵巣機能、卵子の質が治療結果に大きく影響します。そのため、男性側の要因だけを取り出して評価することは簡単ではありません。卵子提供周期を用いることで、卵子側のばらつきをできるだけ抑え、男性のBMI、つまり体格指数が胚の発生や妊娠経過にどのように関わるかを検討しやすくなっています。
対象となった男性はBMIによって、標準体重、過体重、肥満の3群に分けられました。標準体重はBMI 24.9未満、過体重は25.0〜29.9、肥満は30以上と定義されています。そのうえで、受精後の胚における細胞分裂の速度や、胚盤胞に到達するまでの発育、さらに胚盤胞の質、着床率、臨床妊娠率、流産率、生児出生率などが比較されました。
結果として、肥満男性では標準体重男性に比べて、胚の受精後早い段階の細胞分裂が遅れる傾向が示されました。具体的には、2細胞、3細胞、4細胞、5細胞といった初期卵割期の発育タイミングに遅れがみられました。
また、胚盤胞の内細胞塊(将来赤ちゃんの体をつくるもとになる細胞の集まり)の質にも違いがみられ、肥満男性由来の胚では、良好な内細胞塊を持つ確率が低下していることがわかりました。
一方で、受精率や胚盤胞形成率には、BMIによる大きな差は認められませんでした。受精率は標準体重群で75.1%、過体重群で74.6%、肥満群で73.1%であり、胚盤胞形成率も標準体重群で65.1%、過体重群で63.6%、肥満群で63.8%と、明らかな差は示されませんでした。
妊娠成績についても、着床率や臨床妊娠率では統計的に明確な差は示されませんでした。着床率は標準体重群で64.8%、過体重群で64.3%、肥満群で58.7%、臨床妊娠率は標準体重群で60.0%、過体重群で58.9%、肥満群で52.9%でした。肥満群でやや低い傾向はあるものの、研究上は有意な差としては確認されていません。
一方で、流産率については差が認められました。肥満男性のカップルでは流産率が13.5%であったのに対し、標準体重男性のカップルでは9.5%でした。卵子側の影響や治療条件の違いをできるだけ考慮した解析でも同じ傾向がみられたとのことです。
生児出生率については、標準体重群で46.7%、過体重群で43.7%、肥満群で36.5%と、肥満群で低い傾向がみられました。
今回の研究から、肥満の男性は、初期胚発生の遅れや胚に含まれる細胞の質の低下、流産のリスクが上昇する可能性があることが示されました。
<コメント>
この研究で重要なのは、男性肥満の影響が、受精率や胚盤胞形成率といった従来の指標だけでは十分に見えなかった点です。通常の胚評価では「受精したか」「胚盤胞まで育ったか」「胚の形が良好か」といった点が中心になります。しかし、発育のスピードや細胞分裂のタイミングを詳しく見ることで、これまで見逃されていた胚発生の変化が明らかになった可能性があります。
男性肥満が胚発生に影響する仕組みとしては、精子DNA断片化(精子内のDNAが損傷している状態)の増加、酸化ストレス、ホルモンの変化、精子の遺伝子発現の異常などが考えられています。精子は単にDNAを卵子へ届けるだけではなく、受精後の胚発生に関わるさまざまな情報を持っています。そのため、男性の体重や代謝状態が精子の質に影響し、それが胚発生や妊娠経過に反映される可能性があります。
ただし、今回の結果は、男性が肥満であると必ず胚の質が悪くなる、あるいは必ず流産につながるという意味ではありません。研究で示されたのは、集団として比較したときに、男性肥満と一部の胚発生指標や流産率との間に関連がみられたということです。不妊治療の結果には、女性側の年齢や子宮環境、胚の染色体、治療内容、生活習慣など多くの要因が関わります。
一方で、お子さんを望む男性にとって、体重管理はすぐに取り組むことのできる要因のひとつです。肥満の改善、栄養バランスの見直し、適度な運動、睡眠、禁煙などは、精子の状態や全身の代謝環境を整えるうえで大切です。

