不妊の原因になる病気

睡眠がART治療成績に及ぼす影響

細川忠宏

睡眠の質不良や長時間睡眠、1時間を超える昼寝は、体外受精(ART)治療における卵巣反応や胚発育の低下と関連することが中国で実施された研究で示されました。

近年、自然妊娠においても、体外受精(ART)治療においても、睡眠が妊孕能に対してなんらかの影響を及ぼすことを示す報告が相次いでします。具体的には睡眠の「量」よりも「質」や「規則性」、「概日リズム」が妊孕能や妊娠予後に関連するというものです。
ただし、これらの知見がART治療成績との関連性についてはまだ確定されていません。

そこで、中国の武漢大学中南病院の研究者Bariyaらは、ART女性患者の睡眠特性、具体的には睡眠の質や睡眠時間、昼寝の時間などのART治療成績に及ぼす影響を調査すべく前向きコホート研究*を実施しました。また、本研究ではストレスがその関係を媒介するかどうかも検討していますので、ご紹介します。
 *コホート研究:ある集団(コホート)を将来にわたって追跡し、特定の要因と結果の関係を調べる観察研究の方法。 

研究デザインと方法は以下の通りです。
 ・対象: 中国の武漢大学中南病院でART治療(体外受精/顕微授精)を受けた女性174名 。
 ・期間: 2021年12月から2023年12月まで
 ・評価方法: 初回のART治療開始前に睡眠やストレスを評価。睡眠は「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」で睡眠の質(睡眠時間、入眠困難の頻度、日中の昼寝時間)を、ストレスは「知覚ストレス尺度(PSS-10)」で評価 。
 ・主要評価項目: 採卵数、成熟卵数、受精率、良質胚数、胚盤胞形成率、そして、胚移植後の妊娠成績として着床率、臨床妊娠率。 

 主な結果は以下の通りです。
 ◎睡眠の質
 ・睡眠の質が低い女性(PSQI>5)では、採取卵子数(−22.89%、95%CI:37.82%、−4.00%)と成熟卵子数(−22.01%、95%CI:37.54%、−2.62%)が有意に少なかった。
 ・週3回以上寝つきが悪いと報告した女性では、胚盤胞形成率が有意に低下した(−64.40 %, 95% CI: 85.55 %, −12.30 %)。
 ・週1回未満寝つきが悪いと報告した女性では、採取卵子数が減少(−28.89%、95%CI:47.34%、−3.98%)し、成熟卵子数も減少(−27.77%、95%CI:46.90%、−1.73%)した。

◎睡眠時間 
・10時間以上睡眠をとる女性は、採取卵子数(−30.68%、95%CI:48.88%、−6.00%)、成熟卵子数(−27.17%、95%CI:46.57%、−0.73%)、良質胚数(−45.64%、 95%CI: 65.43 %, −14.51 %)が少なかった。

◎昼寝や仮眠の時間 
・1日1時間を超える昼寝は、卵子成熟率の有意な低下(−73.8%、95%CI:88.91%、−38.06%)と関連していた。 
・短時間の仮眠では成熟率がわずかに上昇するものの、1時間を超える長時間の仮眠では有意に低下する傾向が観察された。この関係は、良好な睡眠の質(PSQI ≤5)を有する女性(p < 0.001)および正常BMIの女性(p = 0.0005)において有意であった 。

 ◎ストレス
・知覚されたストレスはこれらの関連性を有意に媒介しなかった。 

 結論として、睡眠の質の低下や入眠困難、長時間の夜間睡眠、さらには、長時間の昼寝は、ART治療における卵成熟や胚発育に悪影響を及ぼすことが示唆されました。 著者らは、睡眠パターンの改善が治療成績向上に寄与する可能性があるとしつつも、因果関係の確定にはさらなる研究が必要であると述べています 。

<コメント>
ART治療前の生活習慣において、極端な長時間睡眠や長時間の昼寝、入眠障害に注意するのがよいことが示唆されています。ただし、この研究はひとつの施設で行われた研究であり、睡眠の評価方法は主観的評価でご本人の自己申告によるものでした。そのため、睡眠の質とART治療成績との因果関係についてはっきりわかったわけではなく、睡眠の最適化は有望であるものの、過度な介入は慎重にというスタンスが示されてます。