母児の健康 有害物質

妊婦の血中PFAS濃度と妊娠・出産経過との関連

細川忠宏

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妊娠中の日本人女性23,596人を対象とした解析で、妊娠初期の血中PFAS濃度と前置胎盤、切迫流産、過期産など複数の妊娠・出産経過との関連が示され、一部では子宮内膜症の有無による違いもみられました。

PFAS(有機フッ素化合物)は、水や油をはじき、熱にも強いことから、さまざまな工業製品や日用品に使用されてきた化学物質の総称です。一部のPFASは環境中で非常に分解されにくく、体内にも蓄積しやすいことから、人の健康への影響が懸念されています。PFASの一種であるPFOSやPFOAなどはすでに製造・使用の規制が進められていますが、過去に広く使用されてきたため、現在も環境や人体から検出されています。

今回の研究では、環境省が全国約10万組の親子を対象に実施している「エコチル調査」のデータを使用しました。妊娠初期に採取した血液からPFAS濃度を測定し、必要な情報がそろっていた妊婦23,596人を対象に、帝王切開、前置胎盤、早産、過期産(妊娠41週以降の出産)、切迫流産、切迫早産、胎児機能不全(妊娠中や分娩中に胎児の心拍などの状態に問題がある可能性が疑われる状態)、妊娠中の体重増加など14項目との関連を調べました。解析したのは、PFOAやPFOSなど、血液から一定以上の割合で検出された8種類のPFASでした。

その結果、8種類のPFASはいずれも、複数の妊娠・出産に関する項目のうち少なくとも1つと関連していました。特に前置胎盤では、血中PFOA濃度が最も高いグループで、最も低いグループに比べて前置胎盤との関連を示す指標が約2.5倍となりました。また、切迫流産や過期産、新生児合併症、胎児機能不全などについても、一部のPFASとの関連が認められました。複数のPFASへの曝露をまとめて評価した解析でも、PFAS濃度が高いことは、帝王切開、新生児合併症、過期産と関連していました。

一方で、すべてのPFASがすべての項目について悪い方向に関連していたわけではありません。一部では、子宮内胎児発育遅延や切迫早産などが少ない方向の関連もみられました。また、5種類のPFASでは、濃度が高いほど妊娠中の体重増加が少ない傾向が認められています。このように結果は一様ではなく、それぞれのPFASが妊娠経過にどのように影響するのかについては、さらに検討が必要です。

さらに研究チームは、子宮内膜症の有無によって結果が異なるかも調べました。その結果、帝王切開、切迫早産、新生児合併症、切迫流産などでは、PFASとの関連の現れ方に違いがみられました。つまり、子宮内膜症があることでPFASと妊娠・出産経過との関係が変わる可能性が示されたことになります。

今回の研究は、日本人妊婦を対象とした大規模な調査で、妊娠初期の血中PFAS濃度と幅広い妊娠・出産経過を調べた点が特徴です。妊娠中のPFAS曝露が母体や子どもの健康にどのような影響を及ぼすのか、今後さらなる研究が期待されます。

<コメント>
今回の研究では、妊娠中の女性の血中PFAS濃度と新生児合併症や切迫流産との関連が初めて示唆されました。なかでも、PFOA濃度が最も高いグループで前置胎盤との関連を示す指標が約2.5倍となった点は、今後さらに検証していく必要がある結果だといえます。

当然、PFAS濃度が高ければ前置胎盤になる、あるいはPFASを減らせばそのリスクを下げられる、と今回の研究だけから判断することはできません。過度に心配したり、神経質になる必要はないかもしれません。

しかし一方で、現実的に可能な範囲でPFASが体内に入るのを避ける工夫や習慣を取り入れておく方法もあります。
こういった化学物質は、体内から排出されるのに一定の期間を要するものもあり、健康な妊娠や出産にむけて、妊娠前から意識しておけることのひとつといえるでしょう。

1)水道水に含まれるPFASを避ける
2020年に厚生労働省は、水道水に含まれるPFOS及びPFOAの合算値を50 ng/L以下とする暫定目標値を設定し、規制しています。

ただし、これまで日本の水道水で厚生労働省の定める暫定目標値を超えるPFASが検出されていることは、報道でご存知の方も少なくないのではないでしょうか。

そのため、水道水に含まれるPFASを除去するための工夫は意味のあることかもしれません。

「PFOS・PFOAに係る水質の目標値等の専門家会議」で公開されている資料「WHO飲料水水質ガイドライン作成のための背景文書」では、PFASについて高い除去を行える方法として、高圧膜ろ過処理、イオン交換樹脂処理、活性炭処理による吸着プロセスなどが挙げられています。

高圧膜処理やイオン交換樹脂、活性炭による吸着プロセスを活用した浄水器が、水道水に含まれるPFASを避ける対策として効果的かもしれません。

2)魚に含まれるPFASを避ける
農林水産省では、人が食品を介してPFOSやPFOAを体内に取り込む際の主な摂取元は魚介類であるとしています。

PFASを含む水域で育った魚介類は、ばく露の影響を受けている可能性があります。そのため、特に魚介類を食べる際には注意する必要があるでしょう。

魚に含まれるPFASを避ける対策としては、PFASが検出されている水域で獲れた魚介類をできる限り食べないようにする方法があります。

環境省では、全国規模でPFASの水質測定を行っています。それらのデータを参考に、汚染の影響が少ない水域で獲れた魚介類を選ぶことで、ばく露リスクを抑えられる可能性があります。

また、水銀と同様、PFASは食物連鎖を通じて大型魚に蓄積しやすいという側面もあるようです。そのため、魚の種類に気をつけるのがよいかもしれません。

イワシ、サバ、アジ、サンマなどの小型の青魚、すなわちDHAやEPAが豊富で、かつ蓄積性物質が比較的少ない魚を中心にすることです。

反対に、マグロやメカジキなどの大型魚は食べ過ぎないようにします。

3)消費者製品に含まれるPFASを避ける
健康に影響を及ぼすとされているPFOS・PFOAなどの一部のPFASは、撥水剤や撥油剤などの用途で多くの消費者製品に使用されてきました。

近年では、製品そのものや製造工程においてPFASの不使用を証明するPFASフリー商品が、一部の企業やメーカーから販売され始めています。

特に調理器具や化粧品は直接体内に取り込まれやすい用途で使用するため、できる限りPFASフリー製品を選択することで、PFASが体内に入るリスクを避けられる可能性が高くなるかもしれません。

最後に、ビタミンやミネラルをはじめ、さまざまな植物性生理活性物質は、それらの相乗効果によって、有害な化学物質のマイナスの影響を打ち消す方向に働く可能性が、複数の研究で示されています。

避ける工夫だけでなく、いろいろな種類の新鮮な野菜や果物を、毎日、豊富に食べることも、有害な影響を減らすよう働いてくれます。