ビタミン 母児の健康 食生活 (栄養)

妊娠前の母親の栄養状態とADHDやASDの特性をもつ小児の脳構造の関係

細川忠宏

ChatGPT Image 2025年11月13日 18_07_09
妊娠前からのビタミンDやマルチビタミンサプリメントの補充、及び、良好な食事の質は、出生児のADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)特性の減少と関連し、その⼀部は子どもの脳の発育(脳の容積)が関連していることが、オランダの大規模出生コホート研究(Generation R研究)で示されました。

妊娠前の母親の栄養状態は、胎児の脳の発達を最適化するために極めて重要であることがいくつもの報告がなされています。
たとえば、妊娠前からのビタミンDや葉酸、マルチビタミンサプリメント補充、さらには良好な食事の質は、出生児のADHD やASDを含む神経発達障害のリスク低下に関連するという報告がなされています。

ただし、関連性が見出せないという報告もなされており、結論は出ていません。


その一方、母体の食事要因と産まれた子どもの神経発達との関連性の機序についてもほとんど解明されていないものの、これまで母体の葉酸やビタミンD補充、及び食事全体の質が出生児の脳形態測定値(脳の形や大きさ、構造を数値で表したもの)と関連するという報告もなされています。

そこで、オランダロッテルダムの前向き出生コホート研究において、妊娠前の母親のビタミンサプリメントと出生児の脳構造の形態学的パターン、及びADHDやASDの特性との関連性を検討した結果がNutrients誌に掲載されましたのでご紹介します。

本研究は、大規模な集団ベースの子どもの発達研究において、妊娠中の母親へのビタミン補充と産まれてくる子供の脳構造の形態学的パターン(脳の形や大きさ、構造の特徴がどのような組み合わせで現れているか)や、自閉スペクトラム障害(ASD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴との関連性を調査しました。

オランダロッテルダムのコホート研究に参加した合計3,937人の子供(9~11歳)を対象に実施され、
母親側は、妊娠前の母体のビタミンD(血漿25OHD)や血清葉酸濃度、マルチビタミンサプリメントの使用、及び食事全体の質(食物摂取頻度質問票を用いて評価)が予測因子として使用されました。

産まれた子供にはMRIスキャンを実施し、分析ソフトを用いて、大脳皮質および皮質下脳の容積を4つ要素に分けて測定し、脳の大きさや形を評価しました。さらに、親が記入した質問票(児童行動チェックリストや社会的応答性尺度)でADHDおよびASD特性を測定しました。

主な結果は以下の通りです(頭書論文の記載を当社がまとめたものです)。
(1)母体のビタミンDやマルチビタミンサプリメント補充、及び良好な食事の質は、出生児におけるADHDまたはASD特性の減少と関連していました。
(2)ビタミンDサプリメントと良好な食事の質は、小児期の脳構成要素の容積増加と関連していました。
(3)容積が⼤きい脳構成要素は、ADHDとASD特性の減少と関連していました。
(4)妊娠前後の食事要因と出生児のADHD・ASD特性との関連の一部は、小児の脳容積を介して媒介されていました。 

これらの結果によって妊娠前後の母親の栄養状態が産まれた子供の神経発達に影響を与える可能性が示唆されました。

ただし、論文の筆者らは観察された効果量はすべて⼩さかったと報告しています。

〈コメント〉
本研究は、妊娠前からのビタミンサプリメント補充と⼦どもの神経発達障害特性との関連が示されていますが、論文の筆者らは効果量が⼩さいことも強調しています。

また、さらなる妊娠中のマルチビタミンとビタミンDの補充の影響を明確にすべく、追加の集団ベースの研究の実施が必要であるとしています。さらに、これが予防的介⼊となる可能性についても検討すべきだとしており、今後、妊娠中の栄養状態の改善が⼦どもの神経発達障害リスクの低減にどの程度寄与するか、また特定の栄養素がどのようなメカニズムで脳発達に影響するかについてさらなる検討が期待されます。

出典:Nutrients 2025; 17: 2979