男性不妊患者へのコエンザイムQ10の有効性と安全性
原因を特定できない状態の男性不妊患者のコエンザイムQ10の摂取は、特に3ヶ月以上使用した場合で、精子の質や精液中のコエンザイムQ10濃度、臨床妊娠率を有意に改善することが明らかになりました。
活性酸素のレベルが抗酸化能力(自身で活性酸素から細胞を守る能力)のレベルを上回ると酸化ストレスが発生し、精子細胞膜や精子DNAの損傷を引き起こすことが知られています。
原因を特定できない男性不妊患者の30~80%で活性酸素の増加が認められるとの報告がなされていることから、原因不明の男性不妊の多くに酸化ストレスが関与していると考えられており、薬を使用しない治療法のひとつとして抗酸化剤が用いられています。
コエンザイムQ10は脂溶性の抗酸化物質であり、細胞内のミトコンドリアでエネルギー産生に必須のビタミン様物質です。
いくつかのランダム化比較対照試験(RCT)*では、男性不妊患者へのコエンザイムQ10の補給が、精子パラメーター(精液検査で測定される精子の「量・数・運動性・形態」など)と精液中の抗酸化能を有意に改善することが報告されています。一方で、効果や安全性に対するデータは不足しており、エビデンスが確立されているとはまだ言い難い状況です。
*被験者を無作為に複数のグループに分け、そのうちの一つに特定の介入(新薬、治療法、政策など)を行い、行わない対照群と比較することで、その介入の有効性や効果を厳密に検証する研究手法であり、治療法の効果を確かめるための信頼性の高い試験
そこで、インドネシアの研究チームは原因を特定できない男性不妊患者へのコエンザイムQ10サプリメントの補充における、精液の質や精液中のコエンザイムQ10濃度に対する有効性と安全性を検証すべく、信頼性の高い結論を導き出すために一定の基準で質の高い試験データを網羅的に収集し、そのエビデンスを評価しました。
試験の内容は、原因不明の男性不妊患者を対象とし、コエンザイムQ10のみ(100〜200 mg/日)または複合抗酸化剤(コエンザイムQ10を20〜90 mg/日含む)を3〜6か月以上投与し、対照群はプラセボ、もしくは他の抗酸化剤としました。
その結果、781名の被検者(治療群430名、対照群351名)を含む9件の試験が選択基準を満たし、コエンザイムQ10の補給は、精子濃度、精液量、総精子運動率、精液中コエンザイムQ10濃度を有意に改善することがわかりました。
また、臨床妊娠率も有意に上昇しました。また、特定の集団に対して行われたサブグループ解析において、治療期間が3ヶ月を超えると精子の形態が有意に改善することが示されました。
対象となった研究のうちの3件では副作用は報告されていませんでしたが、1件の研究では軽度で一時的な副作用が報告されています。
男性におけるコエンザイムQ10サプリメントの摂取は、特に3ヶ月以上使用した場合、精液の質や精液中のコエンザイムQ10濃度、そして臨床妊娠率を著しく改善することがわかりました。
これにより、原因不明の不妊男性におけるコエンザイムQ10療法は、単独で使用しても、他の抗酸化物質と併用しても、一般的に安全で有望な選択肢になり得ることが示唆されました。
〈コメント〉
原因を特定できない男性不妊患者への抗酸化療法において、抗酸化剤の選択や投与量、投与期間は定まっていません。そんな中でも還元型コエンザイムQ10を1日に200mgを3ヶ月以上補充することは、有望な選択肢として期待できるかもしれません。