食生活 (栄養)

両親の食事パターンと胚の形態動態や治療成績

細川忠宏

食事が生殖機能に影響を及ぼすことは多くの研究で示されています。近年では、特定の栄養素や食品だけをみるのではなく、栄養素や食品同士の複雑な相互作用や相乗効果を反映する「食事パターン」に着目し、食事全体の包括的な評価と生殖に関するアウトカムとの関連が見出されています。

これまでの研究は主に母親になる女性の食事パターンがART成績に及ぼす影響が検討されていましたが、
両親(父親になる男性と母親になる女性)の食事パターンと胚の形態動態の関連性についてのデータは極めて限られています。

そこで、オランダの大学の研究チームが行った、両親の食事パターンと胚形態動態*及びART成績の関連を検討すべく実施された探索的研究をご紹介します。
 *受精後の胚が発育していく過程において、形態の変化が「いつ・どのように」起こるかを連続的に評価した指標のこと。

本研究は、ロッテルダムで現在も進行中の周産期コホート研究から、ART治療のために不妊外来を受診した女性149名と男性126名を対象として行われました。食事調査は妥当性が確認された自己申告式の食物摂取頻度調査票を用いて評価し、食事摂取量に関する報告が不適切であった者は除外しました。

女性と男性でそれぞれ4つの食事パターンが特定されました。

女性の食事パターンは「健康的型」、「ジャガイモと肉型」、「卵・豆類・果物・野菜ジュース型」、「甘味スナック&アルコール型」に分類され、男性の食事パターンは「健康型」、「卵&肉型」、「ジャガイモ豊富型」、「スナック&アルコール、コーヒー型」に分類されました。

胚形態動態には、2細胞期から8細胞期(t2~t8)までの各分裂のタイミング、胚盤胞形成までの各分裂時期、第2・第3細胞周期と同期性、胚発生3日目の既知着床データスコア(胚の着床能を予測する指標)が含められました。ART成績には受精率、胚収量*、臨床妊娠、出生児数が含まれました。
 *採卵を起点として得られた卵子のうち、最終的に移植または凍結保存が可能な胚として得られた割合や数を示す指標のこと。 
Figure2-4-1536x347
図:胚のタイムラプスパラメータ。(Figure2を改変)
tPNf:前核消失までの時間
t2〜t8:2細胞期、3細胞期、4細胞期、5細胞期、6細胞期、7細胞期、8細胞期に到達するまでの時間
tB:胚盤胞形成までの時間

主な結果は以下の通りです。 
・母親の「健康的型」パターンへの順守は、胚の発育がスムーズで既知着床データスコア(胚の着床能を示すスコア)が高いことと関連しました。
・母親の「甘味スナック&アルコール型」パターンは、6細胞期・7細胞期及び8細胞期への発育遅延と関連しました。
・父親の「健康的型」パターンへの順守は、7細胞期・8細胞期への発達が早く、S3(t8⁻t5)の短縮と関連しました。
・父親の「ジャガイモ豊富型」パターンは胚が2細胞期へ早く到達することと関連していました。
・親の食事パターンは 、ART治療成績との関連は認められませんでした。

この研究では、親の食事はART治療成績(受精率、胚収量、臨床妊娠および生児出生数)までは影響しないものの、胚の形態動態には、わずかではありますが一貫した関連性が示されました。

<コメント>
エビデンスは限定的ではありますが、ART不妊患者カップルに対し、
胚の発育改善を意識した健康的な食事を促進する介入の機会を検討する価値があるかもしれません。