食事の質が精子の内部構造にも影響する可能性~不健康な植物性食品と精子クロマチン異常の関連
スペインで行われた研究により、精製穀物や加糖飲料、菓子パンなどを多く含む「不健康な植物性食」と、精子内のクロマチンと呼ばれる構造に異常が多いこととの関連が報告されました。今回の研究は、食事の質が精子の分子レベルの状態に関連する可能性を示した初めての報告です。
妊活や不妊治療において、精子の数や運動率といったいわゆる精液所見が注目されることは多いですが、近年では精子のDNAやクロマチンと呼ばれる構造の質も重要な要素として注目されています。
クロマチンとは、精子の中でDNAがタンパク質と結びついて小さく折りたたまれた構造を言います。精子内のDNAははじめヒストンというタンパク質と結合していますが、精子の成熟の過程でヒストンはプロタミンという特殊なタンパク質へ置き換わり、プロタミンがDNAをよりコンパクトに折り畳みます。しかし、この置換が十分に行われないと、DNAが傷つきやすくなり、受精後の胚発育にも影響する可能性があると考えられています。
今回の研究では、スペインの18〜40歳の健康な男性200名を対象に、食事習慣と精子の状態との関係が検討されました。
参加者に食物摂取頻度調査票を用いて食事内容を評価し、「地中海食」「健康的植物性食」「不健康な植物性食」「EAT-Lancet食」「西洋型食」という5つの食事パターンにどれだけ近いかが調べられました。精子の状態については、精子のDNAの損傷度合いを示す精子DNA断片化指数と、精子のクロマチンの状態が調べられました。
その結果、5つの食事パターンのいずれも、精子DNA断片化との有意な関連は認められませんでした。また、地中海食や健康的植物性食、EAT-Lancet食、西洋型食についても、クロマチンの異常との明確な関連はみられませんでした。
一方で、不健康な植物性食スコアが最も高いグループでは、最も低いグループと比較して、精子のクロマチンに異常が見られる割合が優位に高くなっていました。この研究において調査が行われたクロマチンの異常とは、精子クロマチン脱プロタミン化と言われ、精子DNAのクロマチン凝縮が十分に行われていない状態を示しており、DNAの折り畳みが不十分でDNAが完全に保護されていない可能性があることを示します。
<コメント>
今回精子のクロマチンの異常との関連が見られた「不健康な植物性食」とは、植物由来であっても健康的とは言いにくい食品を多く含む食事パターンを指します。具体的には、精製穀物(白いパンや白米、白い小麦粉など)、加糖飲料、菓子パンや菓子類、フルーツジュースなどの摂取が多い食事です。
一般的に「植物性食品は体によい」というイメージがありますが、今回の研究では植物由来であることよりも、食品そのものの質が重要である可能性が示されました。
この関連について研究者らは、精製糖質や超加工食品の摂取による酸化ストレスや糖化ストレスが関与している可能性を考察しています。こうしたストレスが、精子成熟過程におけるヒストンからプロタミンへの置換を妨げることで、クロマチンの凝縮異常につながる可能性があるという仮説です。
ただし、本研究はある時点での食事と精子所見を比較した横断研究であり、因果関係を証明するものではありません。また、対象者は健康なスペイン人男性であり、不妊症患者を対象とした研究ではない点にも注意が必要です。
それでも今回の結果は、食事の影響が精子の数や運動率だけでなく、DNAを守るクロマチン構造のレベルにまで及ぶ可能性を示した興味深い報告といえます。妊活中の男性にとっては、「植物性かどうか」だけでなく、「どのような植物性食品を選ぶか」が大切であることを示唆する研究結果と考えられます。
健康的な植物性食品である野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ類を中心に、精製穀物や甘い飲料、菓子類を控えめにすることは、男性の生殖機能の健康にとっても有益である可能性があります。

